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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)300号 決定 1985年6月28日

抗告人(債権者)

日本鉱業株式会社

右代表者

笠原幸雄

右代理人弁護士

平本祐二

栃木義宏

相手方(債務者)

破産者双葉トレーディング株式会社

破産管財人

大下慶郎

第三債務者

芳沢機工東部株式会社

右代表者

丸山家治

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は別紙「執行抗告状」記載のとおりである。

二抗告人の本件債権差押申立は、動産売買の先取特権の物上代位によるものであるところ、抗告人は民事執行法一九三条一項所定の「担保権の存在を証する文書」として、(1)破産会社非鉄金属部次長作成の「債務残高確認書」、(2)抗告人作成の「請求書兼売約書(控)」、(3)第三債務者作成の「証明書」、(4)抗告人の担当者が作成した「報告書」を提出するが、右(1)の文書は、非鉄金属部次長の私印が押捺されているのみで会社印の押捺されていない、いわば私的な文書の体裁を有するものであり、しかも非鉄金属部次長が右のような債務の有無を確認し、これについて証明文書を作成し得る権限を有しているか疑問であり、また(2)、(4)の文書はいずれも債権者において単独で作成したものであることはその体裁から明らかであり、(3)の文書は、抗告人から第三債務者に電気鉛一〇〇トン七五九キログラムが納入された事実についてはこれを直接証明するものといいうるとしても、抗告人と相手方間の売買契約を直接証明する文書であるとはいえず、いずれの文書も未だ「担保権の存在を証する文書」とは認められない。また、これら文書を総合しても抗告人と相手方間の売買契約の存在が証明されたとはいえず、「担保権の存在を証明する文書」の提出があつたとはいえない。

三よつて、抗告人の本件債権差押命令の申立を却下した原決定は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(鈴木重信 加茂紀久男 片桐春一)

抗告の趣旨

一、原決定を取り消す。

二、債権者の申立により別紙請求債権目録記載の請求債権の弁済に充てるため、別紙担保権目録記載の動産売買の先取特権(物上代位)に基づき、債務者が第三債務者に対し有する別紙差押債権目録記載の債権を差し押さえる。

三、債務者は、前項により差し押さえられた債権について取立てその他の処分をしてはならない。

四、第三債務者は、第二項により差し押さえられた債権について債務者に対し弁済をしてはならない。

抗告の理由

一、原決定は、債権者が提出した各種書類では未だ民事執行法第一九三条一項にいう担保権の存在を証する証明文書に該当しないとして、債権者の動産売買先取特権の物上代位権に基づく差押命令の申立を却下した。

しかし、債権者が提出した各種書類は、百歩譲るとしても少なくとも総合されることによつて「担保権の存在を証する証明文書」に該当しており、原決定は書証の判断を誤つたもので取り消されなければならない。

以下理由を述べる。

二、原決定は、まず破産会社の非鉄金属部次長作成名義の債務残高確認書(昭和六〇年三月一日付)が、経営危機状況下で作成されたこと、作成資料が明示されていないという二事によつて措信出来ないとする。原決定は、上記文書が所謂売買契約書と同一視出来ないところから、未だ担保権の存在を証する文書とは言えないとし、その余の文書例えば第三債務者の証明文書に対しても一顧だにしようとしない。

三、ところで債権者と破産会社間の本件商品売買は、売主である債権者が転売先である第三債務者に売買商品を直接納入するという形式(=直納)で行われたもので、買主である破産会社の手を経ていない。この点が、通常の動産売買の場合と異なつており、担保権の存在を証する文書か否かを判断する際にもこの違いは反映されなければならない。即ち、転売先である第三債務者が、直納であることを証明すれば、そのことは間接的に(間接的というより直接的であるといっても過言ではない)債権者、破産会社間の動産売買を裏付けることになる。しかも差押えられる等され、実際に支払わなければならない第三債務者の利害こそ最大限保護され、かかる第三債務者の意向こそ最大限に尊重されなければならない筈である。従って本来、直納の場合の第三債務者のかかる証明書は、それだけで担保権の存在を証する文書に該当する筈である。ところで原決定は、第三債務者の証明書の重要性に思い致すこともなく、破産会社の経営危機が明らかになった後に急遽作成したものに過ぎないとの一事によつて、担保権の存在を証する文書ではないとした。仮りに、百歩譲つて急遽作成されたものだとしても、それにより、一体全体その証明度がどの程度低くなるというのであろうか。本件の場合、第三債務者の証明書は、印鑑証明書が添付されることによつて、その真正が担保されている。しかも、本件の場合、第三債務者は個人ではなく資本金五〇〇〇万円の企業である。これらのことは、原決定においてどのように評価されたのであろうか。通常第三債務者は、債務者が破産状態にある以上かかる証明文書を出すことは争いに巻き込まれることから、却つて慎重になるものである。むしろこのような状態において、上述の如く印鑑証明書まで添付して証明したということは、その証明度は高くなつているといつても言い過ぎではない筈である。そもそも債権者が真実動産売買の先取特権を有していないのに、本件の如き物上代位権による差押の申立をなすのは詐欺行為である。従つて、第三債務者が債務者との間の売買の事実、更に債権者から直納を受けた訳でもないのに本件の如き証明文書をだすことは、債権者による詐欺行為の片棒を担ぐ以外の何ものでもない。日本の鉱山業界における第一人者である債権者らが、そのような申立をなし、第三債務者がその片棒を担ぐなどということは、およそ考えられないことはいうまでもない。

以上債権者は、本件の如き第三債務者の証明書は正に「担保権の存在を証する証明文書」に該当すると確信する。

四、仮に百歩譲つて第三債務者の証明文書のみでは、債権者と第三債務者との間の通謀による詐欺行為の可能性を否定出きないというのであれば、既に第三債務者の証明文書が存在している以上債権者と債務者間の動産売買を窺わせる債務者側の何らかの文書が存在していれば充分な筈である。本件においては、破産会社の非鉄金属部次長作成名義の債務残高確認書(昭和六〇年三月一日付)が提出されているが、右文書は前述の第三債務者の証明文書が債権者との通謀による虚偽なものではなく、真正なものであることを裏付けている。若しくは、前述の第三債務者の証明文書が、上記破産会社の非鉄金属部次長作成名義の債務残高確認書の内容が真正なものであることを裏付けている。確かに、破産会社の非鉄金属部次長作成名義の債務残高確認書と第三債務者の証明文書とは、原決定の如くそれぞれ切り離されて個別に評価するならば、原決定の如く担保権の存在を証明する文書に該当しないとの結論に到達する可能性なしとはしない。しかし上記各文書は、それぞれ真正に成立したものであるが、お互いの内容からお互いの文書のもつている内容上の欠陥を補強し合い、その内容上の真正を保証し合うものになつている。

以上により上記各文書は、相互に補強し合うことにより、担保権の存在を証する証明文書と言える。

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